評論家レビュー : SE-MASTER 1

あくなき「挑戦」の果てに生まれた新たな銘機。 山之内 正 オーディオ&ビジュアル評論家

最近は国内ブランドが高級ヘッドホンを手がける例が増えてきたが、パイオニアが投入した「SE-MASTER1」はなかでも特別な存在と言うべきだろう。価格に上限を設けず、国内生産にこだわってクオリティを突き詰める手法は称賛に値する。

パイオニアが超弩級ヘッドホンを開発したのは、本機が初めてのことだが、もちろん一朝一夕で完成したわけではない。パイオニアは1960年代初頭から多数のヘッドホンを手がけ、技術を積み重ねてきた。そして、本機の開発期間はなんと6年間に及び、素材や構造の吟味に十分な時間をかけている。

けっして軽量とはいえないだけに、装着感へのこだわりも半端ではない。掛け心地と重量バランスを考慮してヘッドバンドとハンガーには超ジュラルミンを採用。さらに、太さが異なる2種類のテンションロッドで側圧を制御する方法を採ったことが新しい。

SE-MASTER1の音には、大きく3つの特徴がある。まずは量感と質感が両立した豊かな低音。次に、付帯音が非常に少ない素直な中高音。そして3つめの際立った特徴として、音が頭のなかや耳に張り付かない自然な距離感を挙げておきたい。

音楽ジャンルや編成を問わず、低音の絶対量は多めに感じるが、アタックが速く、広がり過ぎないためか、過剰な印象は受けない。明瞭な発音のあとで音が回りこんだり床を這うことがなく、逆に左右や天井方向に余韻が抜けていくことにも感心した。

付帯音の少なさはすべての音域に当てはまるが、特に中高域のふるまいに注意して聴くとわかりやすい。細部を拾い上げるまでもなく、全体の音調から伝わる品位と落ち着きは誰の耳にも明らかだ。

距離感については、「スピーカーで聴く音場感に近い」と言い換えた方がわかりやすいかもしれない。音が耳に張り付かない心地よさは別格だ。スピーカーからヘッドホンに切り替えたときの違和感の少なさは、設計陣も相当にこだわったようだ。

スピーカーで聴く環境を主に想定して製作された音源を、バランスや音場を著しく変えることなく、違和感なく再生できるかどうか。ヘッドホンでは本質的な解決が難しい課題だが、SE-MASTER1はそこにあえて挑戦したことに深い意味があるのだ。

山之内 正
オーディオ&ビジュアル評論家

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在も定期演奏会を開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。クラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

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