評論家レビュー : SE-MASTER 1

恐ろしいほどのパワーを秘めた、新鮮な驚きのあるヘッドフォン。 文筆業 中林 直樹

どこから眺めても、どの部分を触れても、新鮮な驚きを与えてくれるヘッドフォンである。ドライバーユニット、振動板、ハウジング、ヘッドバンド、取り替え及びバランス接続可能なケーブルなど、それは枚挙にいとまがないほどだ。

イヤパッドにも注目したい。立体形状で、耳の下部にまでフィット。密閉感に優れ、ドライバーから放たれた音の波が余すところなく耳に届く。さらにユニークなのは側圧を追い込める2種類のテンションロッド。発明ともいえるべきフィーチャーである。僕の好みはデフォルトで装備されている口径1.6mmのタイプ。頭がさほど締め付けられず、長時間リスニングに重宝するからだ。

では肝心の音質はどうか。パイオニアのUSB-DACを内蔵したヘッドホンアンプU-05と接続し、ハイレゾファイルを試聴した。普段、オーディオの検証に使用している15のリファレンスアルバムたちだ。その中で特に印象深かったのは挟間美帆の『タイム・リヴァー』(96kHz/24bit)。ジャズ作曲家が自身のラージアンサンブルを率い、彩り豊かな音空間を織り上げた作品である。

まず感じたのはサックスやトランペットの立ち上がりが俊敏なこと。しかも、それらの背後に漂うストリングスの抑揚をも描き出す。ベースやドラムスは太く勢いよく鳴り響いた。しかし、それらの輪郭がタイトなため、他のパートを邪魔しないのが好ましく思える。低域のパワーで音楽そのものを弾ませる、そんなイメージも受けた。

ここでケーブルを別売のバランス接続用JCA-XLR30Mにチェンジ。すると、スピード感はそのままに、トランペットの高域の硬さが緩和される。また、ホーンセクションやピアノ、ヴィブラフォンなどの余韻が一つの空間で程よく調和。立体的な音空間の密度がさらに高まったかのようだ。

中島ノブユキのDSDファイル『散りゆく花』(5.6MHz)では、弦楽器の厚みと滑らかさが両立。女性ジャズヴォーカルのセシル・マクロリン・サルヴァント『フォー・ワン・トゥ・ラヴ』では彼女特有の歌声のうねりや粘りを伝える。喉の奥底から震えるように立ち上がる低域にもはっとさせられた。その瞬間、本機の真のポテンシャルを覗き込んでしまった気がした。底なしのパワーに吸い込まれるようで、恐ろしささえ感じたのだった。

中林 直樹
文筆業

オーディオ&ビジュアル誌の編集者を経てフリーランスへ。もともと、DJ&オーガナイザーとして夜の街に繰り出すこともあるという音楽好きが高じて入ったこの道。オーディオや音楽だけにとどまらず、幅広いフィールドで文筆業を営む。さわやかな笑顔とファッションとは裏腹にセレクトする音楽はマニアック。ジャズやルーツミュージック、前衛音楽と幅広い。

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