評論家レビュー : SE-MASTER 1

開発陣の意気込みの高さを感じられる、新世代のリファレンスモニター。 岩井 喬

数年前、パイオニアが久々となるハイエンドクラス・ヘッドホンを開発しているという噂を聞き、とても心待ちにしていたのだが、それがまさにこのSE-MASTER1であった。ドライバーそのものから国内、それも古くからパイオニアのスピーカーやヘッドホンユニットを手掛けてきた東北パイオニアで熟練の専任マイスターが1台ずつ製造するという、徹底したハンドメイド体制のもと作り上げられる、リスナーにとっては理想の高級モデルとしての姿がここにはある。新規設計の専用ドライバーはPCC処理アルミ振動板とPEEK複合フィルムエッジからなる50mmの大型タイプ。単発ユニットで85kHzまでの広帯域再生を実現させており、久方ぶりの高級機であることを感じさせない、初めからフルスロットルで本気を見せるかのような開発陣の意気込みの高さに圧倒される。

試聴は自宅環境にて実施。送り出しはラックスマンのUSB-DAC、DA-06を、ヘッドホンアンプも同社のP-700uを用い、オプションのバランス駆動用ケーブルでのサウンドも確認することにした。
これまで何度かSE-MASTER1を聴く機会もあったが、アンプの駆動能力を求められる印象であり、P-700uクラスの製品とのマッチングが最適ではないかとその折から思っていたのである。

まず一聴して感じたのは日本らしい穏やかで深みのある几帳面なサウンドであるという点だ。
アルミ素材をふんだんに用いたボディのつくりやフルバスケット方式、フローティング構造など、徹底した振動抑制効果によって歪み感やアバレのない滑らかな音色を得られている。オープン型らしい自然な音場の広がりと、低域の伸び良い柔らかな耳当たりは聴き疲れすることのないスムーズなサウンドの助けとなっているようだ。質感については比較的ニュートラルでドライな描写性を感じるが、これもAIR Studiosでのチューニングの成果といえる色付けのない正確なサウンド性である。

ボーカルをはじめとした音像は密度高く厚みがあり、安定したボディ感を持つ。オーケストラの管弦楽器は丁寧に拾い上げられ粒立ち細やかに、そして誇張なく鮮やかに浮き上がる。
昨今のトレンドでもあるが、高域にかけて倍音を多く乗せ、煌びやかな傾向の音色となるハイエンド機が多い中、SE-MASTER1は控えめでありながらも弦の一本一本に太さのある、存在感を大事にした落ち着きある旋律を聴かせてくれた。

さらにバランス駆動でのサウンドも確認してみたが、制動良く分解能の高いキレ鮮やか傾向となり、音像も締まり良くフォーカス鮮やかに浮かんでくる。ハイレゾ音源ならではの空間性を生かした、音離れの良い生々しい音場もストレートに再現。低域もタイトにまとめ、音場の透明感もよりよく描き出す。オーケストラの余韻の階調も流麗で、楽器の質感もナチュラルで付帯感のない表現となる。密度高く、しかし芯はソリッドにハードなタッチで固めた方向性となるが、本来の個性でもある朗らかかつしなやかな描写性は失わず、モニター性も兼ね備えた絶妙なバランスで聴かせてくれた。SE-MASTER1は脚色を抑え、入力されたソースを地道にトレースする、日本人ならではの真面目さも感じさせてくれる。斬新なテンションロッドなどの導入で獲得した装着性の高さも相まって、長時間のリスニングでも疲れない落ち着きあるサウンドも見事なバランスでまとめあげた。真の解像度の高さ、自然で抑揚豊かな音色も存分に楽しめる実力の高さは、新世代のリファレンス・モニターと呼ぶにふさわしい。
このSE-MASTER1を新たな出発点としたパイオニア・ヘッドホンの今後の展開も実に楽しみだ。

岩井 喬
エンジニア・オーディオライター

収録スタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後 大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生 オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。

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